とどまることを知らないウルトラライトブーム
ここ数年登山界で流行っているキーワードを一つ挙げろと言われたら、多くの人が「ウルトラライト」と口をそろえるでしょう。
ウルトラライト、いわゆるユーエル(UL)は、荷物の軽量化を図り、身軽な装備で山々を駆け巡ることを最善とするスタイルで、「軽量化至上主義」というのとができるでしょう。
荷物を軽量化することで、より素早く、より遠くへ行くことが可能となります。
通常、登山で背負う荷物はとても重いです。日帰りならばあまり荷重を感じることはありませんが、泊まりでの山行は荷物が増えるため、身体にかかる負担は大きくなります。多くのハイカーが、登り始めの数分で「何故俺はこんなことをしているのだろう」と内省してしまった経験があるのではないでしょうか。
「なぜ俺は山に来たのだろう。朝もはよからこんなコンビニエンスストア一つない森の中ほっつき歩いて。高い交通費を出してなぜこんなド田舎に…。水洗便所も暖かい布団もなく、狭っ苦しいテントで夜を明かさないといけないなんて。この墓石みたいに重いザックが憎たらしい。全部ぶん投げて、帰ろう!」といったことは誰しもが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
テント泊山行になると、テント、シュラフ、着替え、食料など装備品が増え、荷物が重たくなります。
重い荷物を背負っての登山は疲労がたまり、身軽さを損ないます。そうして、可能な歩行距離が荷物の重さに比例して短くなります。
重い荷物がハイカーの行動に制約をかけていると言えます。
もっと身軽ならば途中で気持ちが折れずにどこまでも行けるのに
そういった問題を解決するために、ウルトラライトの思想が生まれました。
荷物を軽くしてどこまでも行こうではないか、とある人が言いました。山を駆け、岩を攀じり、岩を飛び越え、川面をホッピングして、草むらを滑ろうではないかと。そう、ウルトラライト思想の日本における草分け的存在、軽山飛夫さんの言葉です。
とにかく重い荷物に辟易させられていた軽山さんとその仲間たちが、軽さこそ正義を掲げ、独自にギアをこしらえたり、あるいはメーカーに掛け合って、軽量化至上主義をオルグしてプロダクト生産に関わり、ウルトラライトの各種ギアが次々に世に生まれました。
時は平成の一桁台。今の登山ブームが始まる少し前のことです。
軽量化至上主義者たちがもっとも力を注いだのが、ザックの軽量化です。
特に泊まりの山行で使うような大型のザックは、ザック自体で3キロぐらいするものもあり、それだけでダンベル一つ背負ってるようなものです。2キロのザックでも同様、これまたダンベル一つ背負ってるようなもの。1キロ半でも同じです。これを500グラム以外にしたらどうでしょう。500グラムのダンベルがあるでしょうか(ないです)。
登山は決して筋トレではない、こう言ったのは軽山さんの岳友の、山登(やまのぼる)さんです。みたことのない景色を堪能するために山に登るのです。知らない世界に足を踏み入れるために自然に入るのです。草木鳥虫と戯れるために遠くまで行くのです。
平成の初期、ダンベルを基準にして軽量ザックの開発が進みました。そしてこの「ダンベルより軽く」のスローガンは、今も、軽量ザックの開発現場で、もっとも大事にされていることでもあるのです。
ウルトラライト向けのザックを選ぶ3つのポイント
ウルトラライト向けのザックを選ぶ際のポイントは3つです。
- 見た目がかっこいい
- デザインセンスにあふれている
- シャレオツ感がみなぎっている
要するに、登山用にしろタウンユースにしろ、見た目が命です。特にウルトラライト向けのザックは、そのポイントだけ抑えておけばOKです。なぜなら、ウルトラライト向けのザックのデザインはどれも似たり寄ったりだからです。
実はこれこそがウルトラライト向けのザックの問題と限界でもあるのです。結局のところ、軽さとある程度の使い勝手を追究すると、デザインが均質化してしまうのです。あれとこれ、それとあれは、デザインがかなり似通っています。ならば、どれを勝手もそう大差ないのでは…。
それは言いっこなしです。とにかく先人たち、はたまた現在のULシーンで日夜研究に研究を重ね、ほかとは違うということを全面に出してモノを売り続けないといけない商業主義的ウルトラライト礼賛者たちは、涙ぐましい努力を続けています。差異を売ることは平成26年現在でもまだまだ有効であるということです。それでは、以下に、ウルトラライター、ウルトラハイカー、ファストパッカー、軽量化至上主義者、軽量化原理主義者たちが数年来汗水垂らし、改良に改良を重ねて開発してきた珠玉の軽量ザック群をブランドごとにご紹介します。
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